中島理論で見るGIレースの勝ち馬(1996年編)

[Notes]

『光を飲み込むブラックホールのように』ダンスインザダーク。弥生賞で勝利を収めた後、上位を争うであろうと見られた皐月賞を熱発で回避。ひと叩きのつもりで挑んだプリンシパルSを快勝後、日本ダービーでは2戦2勝馬にクビ差負け……。ダンスインザダークにとって、春は失意の季節でした。そして、ひと夏を越えた仲秋。菊の季節の到来とともに、黒味を帯びた鹿毛の若武者はターフに戻ってきました。菊花賞の前哨戦、京都新聞杯を危なげなく勝ったダンスインザダークは、1番人気で第57回菊花賞に挑みました。

逃げると思われたナムライナズマの出遅れで始まった淀の3000m戦。レースは、前走セントライト記念(GII)を勝利してここに挑んできたローゼンカバリーの先導により始まりました。ダンスインザダークは8枠17番から発進して後方6番手の位置にいました。GIIウイナーが作り出した序盤1000mのラップは1分1秒9。ローゼンカバリーは、そこから更にペースを落として、2000m通過時点が2分7秒0。ややスローから中だるみの超スローペースへと転じた中、ダンスインザダークと武豊騎手は内ラチ沿い、先行集団6番手くらいの位置にいました。京都コースの芝外回りは、4角から最後の直線で、多くの馬が外へ外へと膨らんで行きます。武豊騎手は、外へ膨らんで行く他馬を尻目に、内から抜け出して行こうと考えられていました。しかし、この名騎手をして、思わぬアクシデントに見まわれました。バテた馬に進路をさえぎられてしまい、馬群の中での位置がどんどん下がって行ったのです。

「ダンス、ピンチ！ダンス、ピンチか！！」関西TV・杉本清アナの絶叫がTVから響いてくる中、先団につけた他の有力馬たちが動き始めた時、ダンスインザダークの姿はそこにはありませんでした。4角を回る時点では後方6番手の位置まで下がっていたのです。それでも、名手・武豊は少しも慌てることなく、最短距離を通るために内ラチ沿いに進路を取っていました。そして、直線。内から先に抜け出したダービー馬を、外側から皐月賞2着馬が競り落とした、その刹那。桃色の帽子と社台レースホースの勝負服を背にしたダンスインザダークが、そのまた外側から強襲して来ました。直線、少しもスピードを落とすことなく、いつの間にか内から外へ持ち出していました。やはりスゴイ、武豊！504kgの大柄な馬体が一歩一歩差を詰めて、ロイヤルタッチを半馬身交わした所がフィニッシュでした。勝利という名の光を、一瞬にして飲み込んでしまったブラックホール。恐るべしはダンスインザダーク、上がり3ハロンの推定タイムは33秒8の鬼脚！！春の無念を一気に晴らした菊花賞制覇でした。勝ち時計は3分5秒1。生産は千歳・社台ファーム、オーナーは(有)社台レースホース、所属は栗東・橋口弘次郎厩舎。父サンデーサイレンスは前週の天皇賞・秋に続いてGI連勝となりました。レースの2着には同じサンデーサイレンス産駒のロイヤルタッチ、3着にはダービー馬フサイチコンコルドが入りました。

菊花賞のレース後、その脅威の鬼脚の代償としてダンスインザダークが支払ったものは、不治の病「屈腱炎」の発症でした。若武者は人々に感動を与えつつ、サンデー4強世代のもう1頭の強い馬であるバブルガムフェローと一度もまみえることなく、ターフから去って行きました。通算8戦5勝、2着2回、3着1回。記録上は菊花賞(GI)、京都新聞杯(GII)、弥生賞(GII)と重賞3勝ですが、その記録以上に、記憶に残る強い馬でした。

ダンスインザダークは、ご存知の通り第56代オークス馬ダンスパートナーの全弟です。同時に第61回日本ダービーの2着馬エアダブリンの半弟でもあります。クラシック戦線を賑わせた活躍馬を3年連続して輩出した母馬、ダンシングキイはスゴイですね。B&B理論的な解釈をするならば、ダンシングキイの7代に残る残牡先祖数は『5/64』という極めて少ない数になります。その4代血統構成は『Nijinsky×Key to the Mint×Raise a Native×Tom Fool』で、4代に交配されたすべての父が非0交配となっています。そのような配合では一見先祖の数が減りそうにありませんが、後ろの代に行くにつれ、巧みにクロスが折り重なり、先祖の数を上手く減らしています。ダンスインザダーク&ダンスパートナーの8代残牡先祖数は『10/128』、エアダブリンの8代残牡先祖数は『7/128』といずれも少ない残牡先祖数となっています。さらに、Key to the MintがEclipse分枝17代孫のためにネオ異系の役割を果たします。ゆえに、ダンスインザダーク&ダンスパートナーの潜在能力は『7.50』、エアダブリンの潜在能力は『5.25』という高い値を示しています−GIを勝っていない兄貴の方がB&B理論的な潜在能力は高いんですね。その父トニービンの7代残牡先祖数は『4/64』という数値ですし−。